○岸本和弘 1 )、河野 亘 1 ),2 )、和田智仁 1 )
1 ):  京都府歯科医師会
2 ):  大阪歯科大学有歯補綴咬合学講座

食感を表す日本語オノマトペは非常に豊富であり、その感覚を共有するためには歯を含む口腔内を健全に保つことが大切との思いから、自発的な歯科医院への通院を促すなどの様々な施策を京都から啓発、発信できればと提言してきた。
日本人にとって特別の日(節目)あるいは非日常を表す概念である「ハレ」の日には、その日だけの特別な行事があり、その行事に伴う特別な食事が提供される。超高齢化社会となった現代日本においても、還暦以降の節目節目での「ハレ」の日を慶事として祝い、家族で特別な食事会が開かれることが一般的である。「人生100年時代を美味しく過ごす」ためには、家族と一緒に、家族と同じ美味しい食べ物、食材を、楽しく食べることであると考える。つまりそこに集う家族全員が、食材の一番美味しい食感や料理(家庭やおふくろの味も含めて)の味付けを共有する必要がある。形態的だけでなく機能的にも健康な歯と口の状態であれば、より一層幸せな「健康長寿」を導くことができる。
ところが近年、「フレイル」やその前段階のプレフレイルの一つである「オーラルフレイル」が話題になっている。歯の欠損や歯周病、さらには口腔周囲筋や舌骨筋群の虚弱が原因による「食べこぼし」や「誤嚥」はオーラルフレイルとして問題視され、「誤嚥性肺炎」や正月の「餅のど詰まらせ」による窒息死の原因とも考えられている。
そもそも、ほとんどの哺乳類は鼻で呼吸をする。鼻は呼吸のため、口は食べるためにあるのだが、人間は進化の過程で言葉を使うようになり、食道と気道が交わるようになり、呼吸の際には鼻だけでなく口も空気の入口として使うことが可能になったと考えられている。
2020年当初以降のコロナ禍によって、マスク着用は第一線のマナーと化しているが、マスク着用により多くの人の呼吸方法が鼻呼吸から口呼吸へと変化していると察する。口呼吸は口腔内環境を悪化させる要因の一つであり味覚にも影響を及ぼす。
今回、人生100年時代に和食を「美味しく」、さらに「オーラルフレイル」を予防して、「安全に」食べ、より豊かなQOLを目指すことについて、歯科医療従事者の立場から提言する。

kishimoto

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歯科の立場で想う「美味しい」和食のいただき方 ―人生100年時代を「美味しく」、「安全に」過ごすために―」への25件のフィードバック

  1. 【質問】

    乳歯から永久歯への生え変わりの段階で虫歯になりやすいのはなぜですか?

    口呼吸が口臭・虫歯の原因や、歯周病悪化の原因、味覚を狂わせる原因になるのは、乾燥によるものですか?

    口腔内環境を整え人生を通じて美味しいものを美味しく楽しく食べ続けていくために、適切な歯磨きと口呼吸を抑え鼻呼吸を意識することの他に、普段からできることはありますか?

    【コメント】

    豊かな食生活を送っていく上では、「食べるもの」への工夫を凝らすだけでなく、それを味わい、体内へ取り込む入口である「食べるところ」への配慮も必要であることが、改めて非常によく分かりました。私は、食事を味わうことと心身が健康であることは、相互に密接に関わっていると考えています。心身が健康であるからこそ、旬や食材本来の持ち味を生かした「本当に美味しい食事」を楽しむことができ、「本当に美味しい食事」によって心身がより一層健全になり得る。今回お聞かせ頂いた口腔内環境の健全と豊かな食生活の関係は、そのことのわかりやすい具体例の一つであるように感じました。

    1. 長谷川千尋様
      ご質問ありがとうございます
歯は生え始めの段階ではとても柔らかく(といってもそれなりの硬さはありますが)、歯の高さも揃ってないために汚れも溜まりやすく、結果として虫歯になりやすい時期となります。年齢的にも自我が芽生え「親の仕上げ磨きをさせてくれない」等の環境の変化も影響大です。

      1. 岸本先生、丁寧なお返事を頂きありがとうございます。
        乳歯から永久歯への移行期は、今後の人生を共にする歯を揃える時期であると同時に、より一層口腔内環境の清潔を保たなければならない重要な時期なんですね。子ども自身も、その保護者も、互いにそのことが分かっていれば丁寧に歯を磨く習慣をつける良いチャンスにもなるのではないかと感じました。

  2. 口呼吸の悪影響は乾燥によるもの、とも言えますが、もう少し突っ込んでみると、唾液分泌量の低下による影響が大きいのです。
    唾液は口腔内に潤いを与え、歯牙再石灰化や緩衝能など教科書的には何十個もの良い作用があります。
    加齢に伴う唾液分泌量の低下は致し方ない部分もありますが、たかがマスク1枚、といえばかなり語弊がありますが、マスクをする習慣が出来たことによる弊害も多くあることを私は皆さんに知って考えて頂きたいと切に願います。

    1. 唾液の役割といえば、個人的には「炭水化物の消化」が思い浮かびやすいのですが、その他にも多様な効能があるんですね。コロナとの今後の付き合い方を考えることが求められる今、口腔内環境を清潔に保ち、ひいては全身の健康も保持するか、という点でも、アフターコロナと向き合わなければならないのだな、と気づくことが出来ました。

  3. 私が想う普段から出来ることは「笑い続ける」ということです。
    これは何も食生活に限った話ではないと考えますが、笑うためには心身の余裕が必要でしょう。
    切羽詰まった状況では笑うに笑えません。
    笑えるということは環境がポジティブであるとも言えるでしょう。
    美味しいものを美味しいと感じ、それを共有しあえる仲間がいることも大切でしょうね。意識しあえる仲間がいれば自ずと衛生面も気になるでしょうし、服装にオシャレをするように口腔内環境にも気を配るようになる、と私は信じてます。


    要は、普段から出来ること、それは普段からの心の持ちよう、でしょうか。
    
コロナ禍に於いて、心身の健康はとても大切だと感じます。
    全身の健康は歯と口から、と私は考えます。

  4. たしかに、歯が見えるほど目一杯笑おうと思えば、自然と歯の綺麗さにも注意がいくように思います。笑うというのはやはり、心身ともに良い影響を及ぼす、とても大切なことなんですね。コロナ禍をはじめ、自然災害や事件事故、その他日常におけるトラブルや悩みごとなど、生きていく上では誰しもが、笑うことが難しい事態にも度々遭遇しますが、それでも誰かと笑い合うことを忘れないでいるというのは非常に重要なことなのだと、感じました。

    各質問に対し丁寧にご回答下さいましたこと、改めて御礼申し上げます。

  5. 【質問】
    ・「トロミ付きの日本酒」素敵です!87歳の祖父に飲ませてあげたいと考えていますが、どちらで購入可能でしょうか?

    【コメント】
    「貧乏舌」という言葉がありますが、食を味わうという意味では、「貧乏歯」のようなものが存在するのか!!と思いました。私が当たり前に感じていた「コリコリふわふわ」という食感は、歯が健康ではない人にとって満足に感じることが出来ず、共感出来ていないということに気が付かされ、とても興味をもちました。

    1. 吉越 萌様
      コメントありがとうございます。共同発表者の河野です。
      「コリコリふわふわ」に代表される食感の美味しさ表す日本語オノマトペについては、本学会の研究誌である和食文化研究第二号に詳しく言及しておりますが、我が国には豊かな自然の食材を「煮たり」、「焼いたり」するだけでなく、その素材を生かし、食感を大切に残すために「生で食する」文化が存在します。それらの食感の美味しさの僅かな違いを表現するために、食感を表す日本語オノマトペは豊富になったとも推察されます。さらに新鮮で旬な食材を美味しく食べるためには、オノマトペに表現されるような「美味しい音」が必要であって、その音を発生させるためには健康な歯による咀嚼が必須となります。また「美味しい」食感を共有するには、「食べる」側はもちろん、「提供する」側の歯の健康状態が大切になると考えております。
      「トロミ付きの日本酒」に関しては、後ほど共同発表者の和田先生から詳しく解説します。

      1. 河野先生
        吉越萌です。ご丁寧な対応ありがとうございます。料理を提供する側の歯の健康について、有名な料理人を思い出してみると、綺麗な歯を持った方が多いように思えます。綺麗な歯が美味しい料理を作り出しているということが垣間見えます。

    2. 吉越 萌様 
       質問いただきありがとうございます。共同発表者の和田です。ご質問頂きましたとろみ付きの日本酒は京都伏見にあります蔵元、北川本家のオンラインショップで
      「ととろ酒 雅香(みやこ)」のネーミングで販売しております。酒税法の関係でリキュール扱いとなっていますが、正真正銘日本酒から作られています。実際、私たちが企画し試作しながら商品化しましたので味も太鼓判です!!もちろん、高齢者だけではなく皆様に楽しんでいただけますので、ハレの日にご家族で楽しんでいただければ幸いです。

      1. 和田先生
        吉越萌です。ご丁寧な回答ありがとうございます。オンラインショップ拝見いたしました。とろみの濃度に目安となる基準があること、濃度が高いと表記としてはゼリーという表現になること、初めて知りました。早速取り寄せてみます!ありがとうございます。

  6. 【質問】
    「トロミ付きの日本酒」素敵です!87歳の祖父に飲ませてあげたいと考えていますが、どちらで購入可能でしょうか?

    【コメント】
    「貧乏舌」という言葉がありますが、食を味わうという意味では、「貧乏歯」のようなものが存在するのか!!と思いました。私が当たり前に感じていた「コリコリふわふわ」という食感は、歯が健康ではない人にとって満足に感じることが出来ず、共感出来ていないということに気が付かされ、とても興味をもちました。

    1. 吉越 萌様
      「貧乏歯」とは、新語ですね!
      「貧乏舌」の意味を改めて調べてみると、高価な食べ物が苦手な人のこと。普段めったに食べない高級なものほど、かえって美味しくないと感じてしまう味覚の持ち主のことで、食べなれていないからその美味しさがわからない。だから高価な食品を美味しいと思えないということのようですね。となれば「貧乏歯」は、「カリカリ」、「コリコリ」、「シャキシャキ」など旬の美味しい食感を感じることの出来ない「歯の不健康」な状態の持ち主とでも定義するべきでしょうか。

  7. 歯は大事ですね。「芸能人は歯が命」というフレーズが昔ありましたが、一般人も死ぬまで食事をするためには口の中を大事にしなければいけないということを改めて感じました。

    質問です。
    ①歯は人類誰もが持っていますし歯科医院は世界中にありますが、世界的にみると日本の歯科医および歯科医学はどの程度のレベルなのでしょうか。
    先生がお考えになる歯科医学の先進国はどの国ですか?
    また、日本人が参考にするべき諸外国の口腔ケアがあったらご教示いただきたいです。

    ②嚥下食の日本酒のご紹介がありましたが、あえてとろみをつける理由は何ですか?通常の液体の日本酒と比較してのメリットをご教示いただけたらと思います。

    1. 中田梓音様 
       ご質問頂きありがとうございます。共同発表者の和田です。
      ②についてご説明します。少し専門的な話になりますがご了承ください。人が飲み込むときのごっくん(嚥下)は喉の周囲の筋肉の反射によって行われています。反射のスイッチは色々なことにより起こるのですが、簡単に言えば飲み物や食べ物があるところを通過すると反射が起こり、ごっくんとなります。このごっくんは反射が起こると自分では止めることができません。人は加齢により当然ながら筋力が低下していきます。水分のように喉に流れてくるスピードが速いものは、そのタイミングに合わせたごっくんの反射(嚥下反射)が必要なのですが、加齢や病気などで筋力が落ちたり、反射自体が鈍くなったりすることにより飲み込みのタイミングが上手くいかずにむせてしまします。ですので、喉に落ちてくるスピードを遅らせ、タイミングを合わせるためにとろみをつけるのです。本来は食道(食べ物の通り道)に入るべき物が気道(空気の通り道)に入ってしまう、これを誤嚥(ごえん)といいます。誤嚥によりおこる肺炎のことを誤嚥性肺炎と言います。高齢者に肺炎が多いのはこの理由です。高齢者が誤嚥性肺炎を繰り返すと、それは生死に関わります。状況によっては絶飲食と医師から宣告されることも少なくありません。そこで、いつまでも美味しく飲める日本酒を開発した次第です。

    2. 中田梓音様
      ご質問ありがとうございます!
      ①につきまして、日本の歯科医療レベルは、世界規模でみて決して低くないと思います。むしろ高い方でしょう。
      ここで考慮しなければならないのが、ココの国における医療制度などの背景です。
      日本には世界に誇る皆保険制度があります。
      これは国が主導する制度なので、使えるものに制限があります。
      言うなれば、料理を作るに当たって、日本の皆保険制度を使うなら「塩、砂糖、醤油」という限られた材料しか使えないという制限があります。
      医療技術、それは板前さんの技術のようなもので、毎日包丁を丁寧に研いでいる職人さんと、そうで無い料理人さんとでは、自ずと作られる料理にも差が出てくるでしょう。

      以下に、サンスターが発表した、アメリカ、スウェーデン、日本を比較したレポートを添付致します。
      ちょっと古い2014年のものですが、この対比率は今でもそんなに変わってないと感じております。
      ご参考までに。

      https://www.lion.co.jp/ja/company/press/2014/pdf/2014050.pdf

      1. スミマセン!一部訂正です。
        添付URLは、サンスターではなくライオンでした。
        サンスターも自前の研究所を持ち素晴らしい研究をされてます。
        ライオンも自前の研究所を持ち素晴らしい研究をされてます。
        今回の添付先はライオンでした。
        お詫び申し上げますとともに訂正致します。

        1. 岸本知弘さま

          ご回答ありがとうございました。
          限られた制度の中で個人がどのくらいできるかということですね。よくわかりました。
          ライオンのレポートも添付いただきありがとうございました。

      2. 和田智仁さま

        ご回答ありがとうございました。嚥下と誤嚥のしくみがよくわかりました。
        高齢になっても楽しめるお酒を知ることができて私自身安心しました。

  8. 【質問】
    加齢によって飲み込みにくくなるのは、食道辺りの筋肉の衰えが原因ですか?唾液量が減少することも関係しますでしょうか?また、飲み込みにくくなることへの予防策などはあるのでしょうか?
    お教え頂けると幸いです。

  9. 長谷川千尋様
     ご質問ありがとうございます。共同発表者の和田です。
    飲み込みにくくなるのには色々な原因があります。その中の一つに筋肉の衰えがあると思っていただければ結構です。ただ食道辺りの筋肉ではなく、主に喉(専門的にいうと口腔から咽頭の部分の筋肉→顎舌骨筋群)の衰えが飲み込みにくさに大きく影響します。
     唾液量については、素晴らしい着眼点です。お手元にクラッカーなどありましたら、2枚ほど全部口に入れて食べてみてください。簡単に唾液量不足による摂食嚥下障害が疑似体験できます。唾液は食べ物をスムースにごっくん(嚥下)できるようにする潤滑剤の役割を担います。
     予防に関してですが、これは少し抽象的かもしれませんが、よく「しゃべり」よく「笑い」よく「食べる」ことです。どの行動も唾液の分泌を促進し、飲み込みに大事な筋肉を使います。専門的なリハビリも多々ありますが、生活の中で当たり前のことを継続できる健康な体を維持することが1番の予防策ではないでしょうか。

    1. 和田先生、丁寧な解説を頂きありがとうございます。お返しが遅くなりまして申し訳ありません。
      加齢による嚥下機能の低下の原因がよくわかりました!
      また、予防策についてもお教え頂きありがとうございます。やはり、特別なことを集中的にするよりも、日頃から習慣としてコツコツ積み重ねられることの方が、予防の要なのだと感じました。さらに、「しゃべる」(人とコミュニケーションをとる)、「笑う」、「食べる」の3つは、嚥下機能の低下を防止する以外にも、心身を健康に保つ近道のように思いました。
      興味深い内容の発表と解説に、改めて感謝申し上げます。

  10. 共同発表者の河野です。たくさんの質問、コメントありがとうございました。
    最後にトロミ付き日本酒について、一言付け加えさせて頂きます。
    実は嚥下食の一環として開発し、酒税法の関係でリキュール類となりますが、完全に日本酒です。
    嚥下が弱くなった方、初期の認知症の方でも、優しく、穏やかにお酒を嗜む権利はあるはずです。
    改めて呑んでみると、トロントロンの今までに経験したことのない嚥下感覚‼️
    強炭酸系の酎ハイやビールとは、全く真逆のゆっくり、まったりした喉ごしを楽しめます。
     コロナ禍が落ち着き、次年度和食文化学会での懇親会が開催されるならば、トロミ付き日本酒を持参しますので、ぜひとも学会参加の皆様に試飲してもらえればとも考えております。

    https://www.tomio-sake.co.jp/syouhin/liqueur/10.html

  11. 【最終日を迎えるにあたり】
    皆様、多数のコメント、質問、ご要望など、ありがとうございます!
    私どもは市井の歯科医師に過ぎませんが、歯科・口腔から全身の健康、特に食生活や食文化については常に思いを巡らしております。
    今回このように私たちの想いを発表する場を与えてくださった学会関係者各位に深謝致しますとともに、学会の益々のご発展、コロナ禍に於いても皆様の御健康を祈念いたしましてお礼の言葉とさせていただきます。
    あと一日を残すのみとなりましたが、これからもどうぞ宜しくお願い致します。

    そして、
    とろみ日本酒、本当に美味しいですよ!

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