京都府内におけるコロナ禍の食と農への影響と対応
~主として緊急事態宣言時の様相~
和食文化学会 理事
(公益社団法人)京のふるさと産品協会 理事長
小田 一彦
1 はじめに
国内外から年間8800万人の観光客が訪れる京都は、新型コロナに係る緊急事態宣言が4月中旬から5月下旬の間に発せられ、観光客等の激減により、その影響が宿泊業や飲食業等に顕著に表れ、食材を提供している生産現場も強く影響を受けた。
筆者は、京のふるさと産品協会において、京都の強みを発揮した京野菜等のブランド戦略を推進しているが、観光客を対象とする京都の料亭や関連業界、高付加価値の食材ほど影響が顕著であった。
令和2年11月現在、感染症対策と経済対策が並行して行われており、行政や民間団体、個々の経営体が様々な対応を行っているが、先行きは不透明である。
本投稿は、そうした影響と対応を、緊急事態宣言時の4月から6月頃の様相と、感染症対策と経済対策が並行して行われている今秋の様相を2回に分けてレポートする。
2 食と農への影響(主として緊急事態宣言時)
(1)食への影響
京都府観光連盟が5月下旬に行ったアンケート調査(府内393観光関連事業者回答)では、60%超の事業者が昨年5月と比べて売上高が9割減との結果であった。
回答事業者の業種内訳は、宿泊39%、飲食15%、小売り10%の順で、休業や営業時間短縮を余儀なくされ、雇用維持や将来の経営見通しが立たない、家賃等の固定費 が払えない等の悲鳴の声となった。
483施設が加盟する京都府旅館ホテル生活衛生同業組合の理事長は、「宿泊客、宴会客ともほぼゼロ!6~7割が休業をしており、食材関係にも大きな影響が発生。」と述べられている。
緊急事態宣言時は、国内外からの京都観光がストップ、外出や府県間移動の自粛により、「巣ごもり消費」は伸びつつも、外食需要関係が激減し、食への影響は大変大きなものとなった。
(2)農への影響
京都府農林水産部や当協会が府内産農産物による影響を調査したところ、以下の様相であった。
<ブランド京野菜>
「巣ごもり消費」として利用される一般野菜に比し、京野菜をはじめとしたブランド産品(万願寺甘とう、京たけのこ、賀茂なす等)も府内外の飲食店やデパ地下が休業や営業自粛したことから需要が減少し、卸売市場のセリ価格は例年の1/2~2/3となり苦戦した。
<和牛肉>
京都産和牛枝肉相場の取引価格が2月以降急落し、5月は前年比7割となった。
<宇治茶>
近年、全国的に茶価が低迷している中、宇治茶販売店の来客数や販売額が昨年に比べて2~3割減少し、令和2年茶市場価格が大幅に下落した。
4~5月は手摘み最高級茶の茶摘みシーズンであるが、「お茶摘みさん」が外出自粛要請で減少し、人手不足が発生した。
総じて、ブランド品等の高価格帯の業務用食材需要が低迷したことで、提供する農業へも大きな影響が生じた。
また、3密を避けるため地域での話し合いやコミュニティ活動も自粛され、コロナ禍は、京都の農村地域へボディブローのように影響を与えることとなった。
3 行政や民間の様々な対応(主として緊急事態宣言時)
感染症対策のための緊急事態宣言時には、様々な経済活動が自粛となり、国や自治体は各種の支援策を講じたが、京都府、当協会、料理業界等の「食や農」に係る支援策、自衛的取組を以下に紹介する。
(1)京都府
京都府は、対策に係る3月成立の令和2年度当初予算に続き、4月27日の臨時府議会で感染症対策と経済対策の1,289億円の追加補正予算を成立させた。
農林水産部や商工労働観光部をはじめとした各部局とその関係団体が相談窓口を設け、様々な影響に対する各種支援策を推進した。
(2)京のふるさと産品協会
京都府予算の中で、「京もの『中食』需要拡大支援事業」については、当協会が相談対応と補助金事務等を担当し、京都産農林水産物を扱う飲食店等がテイクアウト等を新規又は拡充する取組に対して支援を行うこととし、京野菜等を食材として提供する「京野菜提供店」等の116店舗が取組に手をあげた。
(3)料理業界等の取組
京都の料理人は、日本料理アカデミーや京都料理芽生会のように、常日頃から仲間どうしで研鑽を積み助け合う文化を持っており、コロナ禍でも共同の動きがみられた。
また、様々な地域で異業種間連携の助け合いの取組も生まれた。
<料理人の取組>
日本料理アカデミーは、「今だけ!本物の京料理をご家庭で」のキャッチフレーズで、宅配プロジェクトを展開した。アカデミー参加の料亭がちょっと贅沢なお弁当を乗客減となったタクシーを利用して家庭に届けるもので、連携助け合いの取組である。
京都料理芽生会は、京料理を明日へつなぐ「京料理・地元農林水産品持続支援プロジェクト」を、行政・各種団体・マスコミ等と連携して「おうちで料亭ごはん」の動画配信等の取組を展開した。これは、当協会のウエブサイトでも紹介している。
<異業種間連携の取組>
料理人以外でも、ファンとなった飲食店を守る取組や、地域で連携した取組が自発的に行われた。
「お店を常連客で守ろう『応援チケット2020』」と題して、デザイン会社が前売りチケットとして利用できる印刷物を無償で店舗に提供し、チケットを買った常連客がコロナ禍収束後にサービスを受ける心温まる取組が始まった。類似の取組は、他府県でも行われた。
「All Tango Action」と題して、経営危機に瀕する京都北部・丹後半島の飲食店をサポートするため、未来の食事券「ふぁんチケット」の発行や、応援の窓口をつくる有志のプロジェクトが始まり、クラウドファンディングは目標を超えて集まった。
4 おわりに
緊急事態宣言時は、京都の食と農に大きな影響が生じ、これに対処するため様々な支 援や取組が行われたが、残念ながらコロナ禍は収束せず、感染者数だけをみると緊急事態宣言時よりも多い事態となっており、一刻も早い収束を望むものである。
次回投稿は、宣言時の取組を振り返りつつ、今秋の食と農の様相をレポートする。