~主として感染症対策・経済対策並行実施の今秋の様相~
和食文化学会 理事
(公益社団法人)京のふるさと産品協会 理事長
小田 一彦
1 はじめに
前回投稿は、新型コロナに係る緊急事態宣言時の4月から6月頃に、京都の食と農に大きな影響が生じ、これに対応するための様々な支援や取組等をレポートした。
残念ながらコロナ禍は収束せず、感染者数だけをみると緊急事態宣言時よりも多い今夏の第2波、そして現在、感染者・重症者数も過去最大の第3波到来となっている。
それぞれの山がゴールデンウィークやお盆の頃で、人が年間でよく移動する時期を含んでおり、第3波は忘年会シーズン、年末年始に重なりそうである。
今秋は、感染症対策と経済対策が並行して行われ、第3波到来に伴い各種対策も見直しが行われ、新たな局面を迎えている。
本投稿は、宣言時の取組を振り返りつつ、今秋の食と農の様相をレポートする。
2 食と農への影響(感染症対策・経済対策並行実施の今秋の様相)
(1)食への影響
京都市観光協会は、9月の主要64ホテルの宿泊状況は、約20万4千人と前年同月の8割弱まで回復したと発表した。「Go To トラベル」等の経済政策が増加要因だが、外国人延べ宿泊客数は同99.7%減とほぼゼロの状態が6か月続き、宿泊客数全体では前年同月の40%弱(10月は45%と発表)となっている。
京都府中小企業団体中央会は11月9日、傘下の518事業体が回答した緊急調査で、コロナ禍の影響で9割の事業体で売り上げ減少があったと公表した。減少率5割以上は宿泊・飲食関係で5割以上を占めている。
京都信用保証協会がまとめた今年度上半期(4~9月)の事業概要では、コロナ禍対応等で保証承諾額が前年同期の7.6倍に膨らみ、その多くは飲食やサービス業であった。
食への影響やダメージは大きかったが、その後の「Go To」等の施策で、京都は国内からの観光客で賑わいの時期があったが、第3波もあり、厳しい局面の再来である。
(2)農への影響
厳しい局面の飲食店等に食材を提供している農の今秋の様相は次のとおりである。
一定回復した品目もあるが、今後のコロナ感染状況に左右されることが懸念される。
<ブランド京野菜>
緊急事態宣言時には大きく影響を受けたが、比較的長期間生産出荷しているブランド京野菜(九条ねぎ、万願寺甘とう、賀茂なす等)については、巣ごもり消費や宅配等の販路・流通を支援したことで一定の回復を果たした。しかし、今秋は全国的に好天で野菜の生育が進み安値傾向であり、今後の野菜生産者への影響が心配される。
<京都産和牛肉>
京都府による学校給食への食材提供支援、冷蔵保管で歳暮等の年末需要に備える等の工夫により、一定持ち直したが、予断は許されない。
<宇治茶>
行政施策による買い支えや、ほんまもんの宇治茶を望む海外からの声に応える形で輸出増等のプラス要因はあるが、3密回避のために「茶事」が行われない、国内外の観光客減のために土産等の物販面の苦戦は依然続いている。
総じて、食と農が被った影響は回復の途についていたが、今後の見通しは厳しい。
3 行政や民間の様々な対応(感染症対策・経済対策並行実施の今秋の様相)
コロナ禍における食と農への影響と対応を検討する「postコロナ、withコロナ」を睨んだ京都府や当協会、大学や各種団体が行った取組を以下に紹介する。
(1)京都府
京都府は、感染症対策と経済対策の各種支援策に加え、7月に食と農の関係者、大学研究者、マスコミ等で構成された「新型コロナウイルス感染症危機克服会議[食関連産業]」を立ち上げ、そこでの議論を府の予算や施策に反映しようとしている。
会議では、「販売チャンネルの拡大としてのEC(インターネット販売)」「新たな経営形態としてのゴーストレストラン」「ミールキット等の内食向け商品開発」「機能性の高い農産物や加工食品は有効」等の方向性が示された。
(2)京のふるさと産品協会
前回レポートで、当協会が「京もの『中食』需要拡大支援事業」を実施し、「京野菜提供店」等100軒を超える店舗を支援している旨を報告した。
事業に取り組んだ店舗に聞き取りをしたところ、率直なコメントは次のとおりである。
●多くの従業員を雇用する飲食店では、むしろ休業して雇用調整助成金や持続化給付金の活用が有効。しかし、制度が切れたときが怖い。
●多くの飲食店がテイクアウトに取り組み競争が激化。資機材も不足し高騰した。
●繁華街で観光客を相手にしたレストラン経営をしていたが、賑わいから外れた景色のよい場所に移転し、リピーター客を大切にする地域密着型の経営にしたことで、お客さんはテイクアウト弁当を愛用してくれた。中食事業支援は有効だった。
●旅行代理店とコラボして、閑寂なお寺見学時にお弁当を配達し、食材やお弁当について説明する企画を行い、好評を博した。
●中食事業を契機に総菜販売ができる資格を取得したので、これから飲食店経営と総菜販売の2本立ての経営を展開したい。
(3)大学や専門学校、各種団体等
今年度前期は、京都府立大学、立命館大学、京都調理師専門学校等の多くの学校は、学生が登校せず、オンライン授業であった。
同時に各大学等は、今夏以降精力的に学生や府民を対象にしたコロナ禍における食を題材にしたオンラインシンポやウェビナーを開催し、問題提起や情報発信に努めた。
(一般社団法人)和食文化国民会議もオンラインによるタイムリーな企画を全国に発信し、京都での企画開催もあった。
中でも筆者が聴講したウェビナーで印象に残るのは、大和学園ホスピタリティ産業振興センターが主催した「アフターコロナを見据える京都の『食』ウェビナー」であった。
講演者の木乃婦三代目高橋拓児主人は、「『テロワール』の考え方で、農山漁村の地域食材に着目し、地域の人たちとWinWinの関係で産品開発!」「こうした時だからこそ、木乃婦の料理人も社会の課題解決に協力してる」として、料理人と自治体連携の地域おこしや料理人活躍の場確保の事例を紹介された。
4 様々な対応事例から読み取れる教訓
府内におけるコロナ禍の食と農への影響と対応について、第1報と本稿(第2報) で様々な事例を紹介してきたが、そこから読み取れる「postコロナ、withコロナ」
の教訓を次に述べる。
経営が持続可能となるようそれぞれの経営体が創意工夫した取組を行うとともに、それをサポートする応援体制の充実が求められている。
- 強みを活かし、オンリーワンを目指す!
日本料理アカデミーが「今だけ、本物の京料理をご家庭で」のキャッチフレーズで展開した宅配プロジェクトは、好評だったと聞く。京料理の伝統と仕出し文化の強みを活かした京都の料理人さんならではの企画である。
当協会が進めている京野菜ブランド戦略も、京野菜の3つの魅力「①京都の歴史・伝統・文化を感じさせる ②生産農家のこだわり栽培 ③機能性成分を多く含む」
を強みとしてPRしている。
サプライ側はオンリーワンのサービス・生産物の提供を目指すことで、困難な事態に遭遇しても顧客が唯一無二ということで選んでもらえるようにしたい。
特にコロナ禍では、安心・安全にとことんこだわり、そのことをしっかり顧客に伝えることが求められている。
- 多様性としなやかさを備えておく!
一方、観光客等の一見的なお客さんに頼る飲食店や限られた販売先に頼る生産物の場合、コロナ禍で経験したようにそれを失うと影響が極めて大きくなる。
しっかりと顧客やリピーター確保の努力をすることはもちろんであるが、いざという時のためのリスク分散の備えは必要である。
飲食店と「こだわりデリバリー」を併用して経営、ネット販売を導入し「B to B」と「B to C」を併用した経営等、コロナ禍で「二毛作経営」が注目されている。
「ドライブスルー○○」として、ネット注文した消費者が3密回避のため車で商品を購入する店舗は大きな広がりを見せている。
先が見通せない中、しなやかに様々なチャレンジを行い、新しいライフスタイルへのサービス提供や新たなビジネスモデルを見出す動きや備えも必要である。
- つながりと連携を大切にする!
リピーター客を大切にする地域密着型の経営にしたことでコロナ禍を乗り切った事例や旅行代理店とコラボして弁当を配達して好評を博した例は先に紹介した。
木乃婦三代目高橋拓児主人は、料理人が自治体と連携して地域おこしに関わった経験談を語った。
こうしたことは、地域内連携や異業種連携が危機克服や新たなビジネスモデルを生み出す可能性があることを示している。
コロナ禍で「マイクロツーリズム」や「安(安心)・近(近場)・単(単独)」が提唱され、安心安全に配慮しながら地域の食材や魅力をストーリー性を持って体験する着地型観光ツアーは好評と聞く。
京都府では数年前から京都を4つにエリア分けし、地域の象徴的資源に光をあて、「海の京都」「森の京都」「お茶の京都」「竹の里・乙訓」と銘打ち、DMO(観光地域づくり法人)を設立して取組を推進しているが、同様の考え方であり、今後の展開を期待したい。
人と人、地域内のつながりを大切にして、危機を乗り越えたいものである。
5 おわりに
コロナ禍に遭遇した京都を振り返ると、昨年までのオーバーツーリズムが激変して、今春は緊急事態宣言で「沈黙の春」となり、今夏以降は感染症対策と経済対策が同時並行、晩秋は第3波到来となった。現状は、春先の緊急事態宣言前に戻った感が否めない。
こうしたサイクルが繰り返すことなく、新型コロナへの的確な対策を講じることで、一刻も早くコロナ禍が収束に向かうことを切に祈るばかりである。